まだまだ暑さの残る毎日ですが、9月に入り少しずつ秋を感じる時期となってきました。
もうしばらくするとHUISからも秋冬のアイテムが少しずつリリースされていく予定ですが、産地では目まぐるしくさまざまなことが起こっています。そんな話題として先日のインスタライブの中でもご案内していた内容を、今日は投稿させていただきたいと思います。
これまでも、原料費・生地代・染色代・縫製代などその他製品制作における原価がいずれも値上がりをしてきていたことから、HUISとしても少しずつ価格の改定を続けてきていましたが、今年に入ってからのこうした生産現場での値上がり幅は、これまでにない大きな上昇幅となっています。
このことから今後、HUISのアイテムの価格改定をさせていただくことになります。
HUISは遠州織物をできるだけ手に届きやすい価格にとどめられるよう、様々な工夫をこれまでもしてきました。その工夫を今後も変わらず続ける中で、産地にとって必要な価格の改定をさせていただくものです。
なぜ事業者さんたちにおける価格の値上げ幅が今それほど大きいのか?
それは、“イランの原油問題”や“深刻な円安”など国際情勢による影響がもちろん大きくはあるのですが、そもそもの根深い課題として、繊維業における川上の事業者さんたちが直面している課題があります。
それは、これまで技術と手間に見合った適切な工賃、後継者を育て次代に仕事をつなげられるような利益を得られる状況にはなく、今のままでは産地の生産者さんたちが事業を続けることができない状況に直面している、ということです。

国内繊維産地の水面下では、「値上げをすることができず、事業を続けられなくなってしまった事業者さん」の廃業が様々な地域で続いています。また、それはひとつの事業者の廃業にとどまらず、産地内での連鎖廃業も生んでいます。
こうしたニュースが業界専門紙で日々報じられている中で、今残っている事業者さんたちが生き残るため、後継者をきちんと受け入れて育てていくための判断として、本格的に値上げに取り組んできた、と言える年だと考えています。
こうした状況にあって、HUISのようなアパレル側の立場としてはどれだけ製造原価が上がったとしても、商品の値上げというのは本当に避けたいことです。
だから事業者さんたちに「今まで通りの金額で作ってください、難しいのであれば海外産の生地に切り替える判断も辞さない」というメッセージが送られてきたわけで、これが正直なアパレル業界の本音です。
もう何十年もそのパワーバランスの中で、国内の繊維産地の事業者さんたちは仕事を続けてきました。
その結果、事業を続けるための適切な収入を確保することができず、声をあげる方法もなく、廃業という道を選ばざるを得なくなっている。
こうして国内の繊維産地は疲弊し、どこも縮小してきました。実際、残念ながら知られることなく既に消滅してしまった産地もいくつもあります。

だから、この製造原価における大きな値上げが続いている今を私たちは、事業者さんたちがついに声をあげた、本気で生き残る道を歩み始めた、その機運だと感じています。
その中でも、遠州産地の中で生まれた大きな動きを紹介させていただきます。
それは古橋織布さんにおけるサイジング事業の承継についてです。
HUIS創業時から変わらず生地を織っていただいている古橋織布さんの生地は、「コードレーン」や「バンブーリネン」「なめらかコットン」など、HUISアイテムの中でも特に人気の生地です。
「これらの生地がいつまで生産できるか分からない」ということは以前からインスタライブなどでもお伝えしてきていましたが、なぜ織ることができなくなるのか、その理由は「糊付け」にあります。

綿織物において、製織前に必ず必要になる「糊付け」の工程ですが、専門用語では「サイジング」と呼びます。
この「サイジング工場」は遠州産地にはもう3軒しかありませんが、この3軒の工場はそれぞれ別の種類の糊付け方法を行なっているもので、それぞれ独自の技術を受け継いできた事業者さんたちです。
つまり仮にこのうちの1社が廃業をした場合、他の2社でその糊付けを代わりに行うことはできないということです。

古橋織布さんは、そのうちの1軒のサイジング工場ですべて糊付けをしてきました。コードレーンやバンブーリネンのような生地は特に特殊な糊付けが必要で生地生産の要でもあります。そしてまた、このサイジング工場さんは、カネタ織物さん、ケイテキスタイルさんなどの生地の糊付けもしています。
ですが数年前にその工場さんが事業を畳むという判断をされ、もう少しだけ、あと一年だけ、と懸命な対話を重ねて今まで事業閉鎖を引き伸ばしてもらっていました。
これまでもお伝えしてきたように、遠州は世界でも最高品質の綿織物の産地です。
他では扱うことのできないほど細い糸、風合いのある天然素材を織れる技術を持つことが産地の特徴ですが、この技術という言葉の中には機織りの技術だけではなく、その前工程にある糊付けの技術も大きな要素を占めます。
どれだけ技術のある機織り職人さんの腕があっても、適切に糊付けされていない糸は織ることができないのです。

それほどの技術をもったサイジング工場が廃業するという判断に至ってしまった。なぜなのか?その理由は、採算が合わないからです。
世界でも稀な、唯一の技術を持っているにも関わらず、後継者を育て事業を続けるための最低限の収入も得られてこなかったのです。
そして、そこで働き続けてきたのは70代、80代の職人さんたちです。
繊維業における製造現場は大変な環境が多くありますが、なかでもサイジング工場は本当に過酷な現場です。
綿織物を扱うため、綿埃(わたぼこり)がフィルターに詰まってしまうことから、真夏でもエアコンを使うことができません。
また、糊付けの工程は大きなシリンダーを高温にして行うことから、暑い工場の中をさらにボイラーで加温します。
真夏の日中、大出力の暖房をかけた工場内で、重厚なシリンダーを扱う重労働の現場です。
こうした中で高齢の職人さんたちが毎日その仕事を淡々と続けられているのです。

古橋織布さんにとって、このサイジング工場はまさに生命線です。
この工場が廃業してしまえば、これまで作ってきた生地の多くを織ることができなくなってしまう。そこで古橋織布さんは、サイジング工場の事業そのものを引き取り、自ら糊付けの工程を受け継いでいくという、大きな経営判断をされました。
その決断によって、私たちはこれからも古橋織布さんの生地を使い続けることができます。
ただし、ここで忘れてはいけないのは、今回受け継いだのが「採算が合わないために廃業せざるを得なかった事業」だということです。
これまでと同じ工賃のまま、その仕事だけを引き継いでも、持続可能な事業にはなりません。むしろ採算の合わない事業を抱えることで、古橋織布さん本体の経営に大きな影響を及ぼすことになります。
だからこそ、事業を受け継ぐことと同時に、その技術や手間に見合った適切な工賃へと見直していくことが不可欠です。
赤字事業を引き受けるというのは、それほど大きな経営判断です。
でも一方で、適切な工賃を確立し、事業としてきちんと成り立つ形に変えることができれば、こうした貴重なサイジングの技術を、この先の世代へ残していくことができるはずです。

これは遠州産地における一つの事例ですが、多かれ少なかれ同じようなことが遠州の中で、そして全国のさまざまな繊維産地で起こっています。
今、私たちが当たり前のように使わせてもらっている素晴らしい生地を、この先も変わらず作り続けられる未来にするために、川上の事業者さんたちは本気で経営のあり方を変え、大きな決断を重ねています。
産地はいま、大きな転換点にあります。
私たちHUISにとっても、この変化の中で難しい舵取りを迫られる場面は少なくありませんが、産地の担い手のみなさんが覚悟をもって踏み出したこうした決断を、きちんと後押しできるブランドでありたいと思っています。
そのためにも、適切な価格で商品を届け、産地へ適切な対価を戻していけるよう、これからもしっかりとブランド運営に取り組んでいきたいと考えています。

※具体的には、これからリリースとなる今期秋冬、来期春夏のそれぞれのアイテムを価格改定させていただく予定です。
今ラインナップしている春夏のアイテムにつきましては、9月中〜下旬に販売終了となりますが、それまでは価格の据え置きさせていただきますので、買い逃しのあった方はこの機会にご注文いただければと思います。

